アサシン クリード オデッセイ

古代ギリシア研究家・藤村シシンさんによる「古代ギリシア探索」第3回

『アサシン クリード オデッセイ』の対象年齢である18歳以上のみなさん、お待たせいたしました。

3回目は「古代ギリシアの迷言集から紐解く彼らの文化」(※下ネタあり)のお時間です。

 

古代ギリシアは名言・迷言の宝庫です。

「汝自身を知れ」(哲学者ソクラテス)という教科書に載っているレベルの名言が乱発されたかと思えば、「夏にするセックスは有害。春と秋のセックスも危ない。冬にするのが一番安全だが、ぶっちゃけ年間を通してセックスは健康に良くない」(哲学者ピタゴラス)。あるいは「セックスは健康にいい」(医術の父ヒポクラテス)という、どっちだよ!というものまで。(三人ともゲームに関わります!)

果ては「最近の若いもんは……」系の言葉も残っていて、「2800年前から人間は同じこと言われてたんだな!」と現代人を安心させてくれるものまであります。

 

今では陳腐になった表現「胸に恋の矢が刺さる」「胸と胸を寄せ合う」なども紀元前3世紀のギリシアで初めて発明された言い回しです。

もしゲーム中で似たような言葉をかけられたとしても、「使い古された言葉だな…」と思わず、ぜひ初めて聞いたかのように「なんて斬新な表現…!」とときめいて下さい。この時代は全てが新しい表現、全てが名言です!

 

そういうわけで、私は現存する古代ギリシアの言葉は全て名言であり迷言だと思っていますが、『アサシン クリード オデッセイ』に特に関係のある迷言(名言)をいくつかご紹介いたしましょう。

 

 

1.「盾と共に帰れ!」

 

 

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スパルタの格言。これから戦いに赴く者に盾を渡しながらかける言葉です。しかし、もしゲーム中に同じ言葉をスパルタ人からかけられたとしても、「心配してくれてありがとう、無事で帰ってくる!」と返さないで下さい。これは相手の無事を祈る言葉ではありません。

元のギリシア語である「e tan e epi tas!」を直訳すると「その盾と共か、上か」。意味は「その盾を持って生きたまま勝利して帰ってくるか、盾の上に死体として乗せられても勝利して凱旋せよ(盾を投げ捨てて逃げ帰ってくるなよ)」。つまり死んでも勝利して帰ってこい!の意です。戦いに対するスパルタの厳しさがよく表れている言葉です。

 

みんな、盾は持ったな!!そしてスパルタの魂を持つものは……盾を手放すな!!スパルタでなくても盾をなくすとめちゃくちゃ怒られるぞ!

 

(パウサニアス『モラリア』より)

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2.「僕はソクラテスと一緒に一夜を共に寝て明かしたが、彼ときたら朝まで一切僕に手を出さなかったのだ!」

 

アテナイきっての美青年アルキビアデスの台詞。古代ギリシアでは同性愛は嗜みや教育の一環であると考えられていました。法律で同性愛が義務付けられていた都市もあったくらいです。

自らの美しさに自信があったアルキビアデスは、哲学者ソクラテスに「僕を愛する資格のある人はあなただけだ」(なんて自信満々の台詞だ!私も言ってみたいぞ!)と言って布団にもぐりこんで抱きしめて誘惑します。

しかしここまでされてもソクラテスは朝まで一切手を出さずに過ごしたのでした。これは肉体の誘惑に負けない哲学者ソクラテスの忍耐強さと思慮深さをと表現したエピソードです。

 

ゲーム中にもこの誘惑者アルキビアデスが我々の前に登場するかもしれませんが、その時はぜひこのソクラテスのエピソードを思い出してから誘いに乗るかどうか考えてみて下さい。

 

 

余談ですが、当時は大きなものを持った男性よりも慎ましいものを持った男性がモテます。だから古代ギリシアの彫刻の像はみんな慎ましいです。ゲーム中も彫刻にぜひご注目ください。

 

(プラトン『饗宴』より)

 

3.壁の落書き

 

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ゲーム中のいたるところに書いてある落書き。こういうのを見ると私は読まずにはいられません。古代ギリシア語が読めて最高に楽しいと思う瞬間です。現実に壁に書いてある古代人の落書きは「誰々が好き」とか「誰々が嫌い」とか他愛もないもの、ここでも書けないようなすごい下ネタが多いです(だから誰も訳したり教えてくれなかったのか!と気づきました)。

しかしここの壁にはめっちゃいいことが書いてあります。

 

「ヘルミオネのリュソンは盲目の少年だった。

しかしこの(エピダウロスの)神殿にいる一匹の犬が彼の目を舐めて治した。

こうして彼は健康になって神殿を立ち去ったのだった。」

 

一見不思議な文章ですが、これは実在の碑文の一部です。エピダウロスの医療神域に建てられた紀元前4世紀のもので、「医術の神アポロンとアスクレピオスによる治癒の業」というタイトルが付けられています。(なんてマニアックな碑文を引用するのだ、アサクリスタッフ!)

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こちらがその実際の碑文です。不妊、薄毛、はげ、尿路結石など様々な問題に悩んだ人々が神域を訪れて、神に治してもらった……という話がたくさん載っています。当時の人々の病や医療に対する感覚が見て取れる非常に面白い碑文です。

で、薄毛や尿路結石はどうなおすんだ!?というと、だいたい神殿の中で一晩眠ると夢の中に神が現れて治してくれます。あるいは、冒頭のように動物が舐めて治してくれます。

ゲーム中にもエピダウロスの治療神域が出てくるので、ぜひ一晩寝てみて夢のお告げを待って下さい。古代ギリシアはゆっくり眠って、夢の中で病を治します!

 

ちなみに古代ギリシアでは、薄毛に対する眠って治す以外での具体的な医療行為としては、「細かく砕いた琥珀を頭に塗る」というものがありますが、私はまだ試したことがありません。(琥珀は高価なため……)

 

(Inscriptiones Graeciae, IV2, 1, nos. 121-22 より)

 

4.「定まった運命から逃れることは我ら神にすらできない。」

 

予言の神アポロン自身の言葉。アポロンからお告げをもらうことができる神託所デルフォイは、ゲームでも重要な場所として登場します。

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(今のデルフォイの神託所。ゲーム中では柱が立ち上がり、人々でごった返す最盛期のデルフォイにいけます!)

 

古代ギリシア人は戦争や国政、果ては個人的な悩みに至るまでこのアポロンの神託所でお告げを求めました。「結婚したいです!」とか「この前から笑いが止まらないんです、なんとかして下さい!」などの質問が寄せられることもあります。

お金を払うと神もちゃんと答えてくれますが、多くははっきりしたものではなく「謎かけ」の形で告げられます。

 

例えば、リュディア王クロイソスは、「隣の国に出兵して勝つことができますか?」とアポロンに問いました。

神の答えは、「出兵すれば偉大な国を滅ぼすことができるだろう」というものでした。意気揚々と出兵したクロイソス、しかし、戦いの末に滅んだのは彼自身の国の方でした。神託の「偉大な国」とは相手の国ではなく自分の国を指していたのです。ギリシアの神は……まじで……残酷です!

 

もちろん古代人も同じことを思っていて、枷に繋がれたクロイソスはアポロンにこう文句を言います。

 

「私がかつてどの神よりも崇拝していた神アポロンよ。

あなたはよく奉仕した者をだますのが習わしなのか。

あなたの神託を信じて戦ったのに、私はこうして枷につながれた!

この枷を見ても、あなたは恥ずかしいと思われぬか。

ギリシアの神々は忘恩を掟とされるのか!」

 

これに対してアポロンが神託の巫女の口を介して言うのが冒頭の言葉です。「定まった運命から逃れることは神にすらできない」。そして「『偉大な国』が自分の国だと気づかず、神託の本当の意味を汲み取れなかったお前が悪い」と続きます。これは古代ギリシアの根幹を流れる思想です。運命は絶対に変えることができません。しかし一方では解釈や選択の余地があります。

 

例えば、紀元前480年のテルモピュライの戦いで、スパルタのレオニダス王が受けた神託はこうでした。

 

「国が滅ぶか、王が死ぬかだ」

 

この神託を受けて、王は300人の親衛隊とともに出兵し、そしてスパルタを守って死ぬ方を選びました。

運命は決まっています……しかし人間は運命を選択できます。

『アサシン クリード オデッセイ』でも歴史の大きな運命は決まっています。前430年のペロポネソス戦争でアテナイが勝つのか?スパルタが勝つのか?これからギリシアはどうなるのか?

それはすでに2000年以上前に定められられたことです。しかし同時にゲームの中では自分の意思を選択することができます……本当の古代ギリシアと同じように、スパルタの王と同じように!

 

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歴史に詳しく、これから起こることを知っている人は運命を楽しんで下さい。知らない人は未来を楽しんで下さい。そしてどちらの場合もどうか選択の余地を楽しんで下さい!

皆さんにいにしえの神々の加護がありますように。最後にもちろんこの言葉を送ります……「盾と共に帰れ!!」

 

(ヘロドトス『歴史』より)

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